自室で思いついた国家資格への道

自室に籠もる毎日は季節感や時間感覚を奪ってしまう。
パソコンが示す日時だけが俺に過ぎ去った時間を淡々と告げていた。
すでに1年と3ヵ月が経過していた。
会社はとっくに解雇になっていた。母親は扉の外で泣いていた。
父親と争う声が階下から遠く聞こえたが、自分とは全く関係のない
ことのように思えた。

ある日、ネットサーフィンをしていた私はフィーサイトという
様々な資格取得の通信教育を行っている講座のサイトに迷い込んだ。
行政書士」「社会保険労務士」「福祉住環境コーディネーター
宅建」「ファイナンシャルプランナー」「簿記
カラーコーディネート講座
そこには聞き慣れない名前の資格名もあった。
ふんふんと眺めているうちに、この資格の中でも「社会保険労務士」
というのは最も難易度が高そうだった。
だが合格している人は30代が一番多く、女性の合格者は3割以上もいた。
なんとなく興味を持ったので、社会保険労務士会の公式サイトにも
飛んでみた。この試験は誰でも受けられるわけではなく
受験資格があるようだった。それによると俺にも受験資格があった。
社会保険労務士の受験資格はこのようなものだった。

このフォーサイトという通信講座の名前は初めて知ったのだが、
合格率などを見ると悪くなさそうだった。何故かと言えば
どの資格講座も受講生の合格率が、受験生全体の合格率を
大きく超えていたからだ。
例えば2008年の例で見てみると

  全国の合格率 フォーサイト受講生の合格率
社会保険労務士 7.5% 11.8%
行政書士 6.47% 10.1%
ファイナンシャルプランナー 学科38.94%
実技34.02%
学科43.2%
実技41.8%
宅建 16.2% 32.5%
カラーコーディネーター 3級70.1%
2級55.87%
3級73.5%
2級61.9%
簿記 3級40.2%
2級29.6%
3級43.8%
2級35.7%

と、こんな具合なのだ!
まだまだ他にも色々あったが、いずれの資格講座もすべて
目を見張るような合格率を達成していた。
俺には毎日時間だけはたくさんあった。
しかも通信講座なら誰に会うこともないし、誰に知られることもない。
別に資格をとって何かをしようということを考えたわけじゃなかった。
ただ、この部屋の中で安全な状態を維持したまま何かできるのなら、
退屈しのぎにやってみてもいいような気がしてきた。
そこで俺は、オンラインで体験版の無料サンプル教材を注文した。
数日後には、サンプル教科書サンプルDVD受講者の声の小冊子
が送られてきた。宅配便らしきインターホンが鳴った時は母親の留守を
確かめて玄関に下り、俺が自分で荷物を受け取った。
家族以外の人間の顔を見るのは1年半ぶりだった。
テキストは4色カラー刷りで開いた瞬間にこれなら続けられる予感がした。
DVDは自室のパソコンで見られるのも好都合だった。
合格者の声を読んでいると、受講者はほとんどが会社で働く人や
子育てをしながら勉強している人ばかりだった。
俺は毎日家にいる。この勉強をしていることで、心の中に巣くっている
もやもやとした不安から少しでも逃れられれば…。
別に試験なんか受けても受けなくてもどっちでもいい。
「外の世界と繋がる何かをやっている」という実感が得られるだけで充分
な気がした。
俺はその数日後にインターネットで受講の申し込みをした。
代金はネットバンクで自分の講座から振り込んだ。